長期ひきこもりの根本解決

ひきこもり関連

家族が長期ひきこもりです。今からでも支援を受けられるでしょうか?

ひきこもりについて、国や自治体はさまざまな支援策を打ち出していますが、抜本的な解決には至っていません。そこには、「ひきこもりの多様化」という課題が挙げられると思います。ここでは、多様化するひきこもりの現在地と、その中でも「長期ひきこもり」について、弊社の見解を述べます。

ひきこもり支援の現実

もともとひきこもりは、その「期間」や「外出頻度」「家族との接触の有無」などによって、当事者の状態も多岐にわたり、それゆえ支援する側には、個々へのきめ細やかな対応が求められるという難しさがありました。

それに加えて近年は、コロナ禍により「ステイホーム」が推奨されたことで、世界中の誰もがひきこもりを経験しました。企業や学校ではリモートワークが取り入れられ、在宅でできる仕事を中心に、副業解禁の波も一気に進みました。

ネットやパソコンに詳しいひきこもり当事者であれば、働くチャンスが増えるかもしれません。と同時にそれは、「在宅ワークをしている人」と「ひきこもっている人」の区別が、外からはつきにくくなる、ということでもあります。

もう一つ現在の日本では、「ミッシングワーカー」という課題も抱えています。ミッシングワーカーとは、失業や親の介護を機に仕事を辞め、求職活動をしていない中高年を指します。雇用統計上は失業者の数に含まれないため、労働市場から消えた状態になっています。40、50代の働き盛りに多く、親の収入や年金に頼るなどして暮らしており、その数100万人超とも言われています(参考;「ミッシングワーカーの衝撃:働くことを諦めた100万人の中高年」(NHK出版新書)

このミッシングワーカーも、おかれている状況によっては、ひきこもりといえるでしょう。このように増え続ける課題に対して、国や自治体がどこまで支援を行えるか、先行きはかなり不透明と言わざるを得ません

九州大学では、ひきこもりについて新たな取り組みも

2020年には、九州大学病院精神科神経科の加藤隆弘講師らが、ひきこもりを適切に支援するための新しい国際評価基準を開発しました。以下に引用します。

「病的な社会的回避または社会的孤立の状態であり、大前提として自宅に居留まり、物理的に孤立している状況である。こうした状況に対して本人が苦悩しているか、機能障害があるか、あるいは、家族・周囲が苦悩しているということが必須項目である。6ヶ月以上を病的な「ひきこもり(hikikomori)」とし、3ヶ月以上6ヶ月未満を「前ひきこもり(pre-hikikomori)」とする。外出頻度が週2-3回を軽度、週1回以下を中等度、週1回以下で、かつ自室からほとんど出ない場合を重度とする。必須項目ではないが、孤独感の有無、社会的参加の欠如、直接的な対人交流の欠如、間接的な対人交流の有無、および併存症の有無の評価は重要である。」

引用;ひきこもり者を適切に支援するための新しい国際評価基準を開発 ~早期介入および国際化するひきこもり現象の対応実現へ一歩前進~ | 研究成果 | 九州大学

この九州大学の研究では、外出頻度によってステージを分類し、それぞれに応じた治療・アプローチを推奨しています。ほとんど外出をせず、家族との接触も拒むような重度のひきこもり(長期ひきこもり)については、家庭訪問や家族支援、遠隔支援が必要とされていますが、自治体の本音を言えば、時間がかかるわりに資金や人手が不足しており、未だ、消極的な関わりにとどまっています

長期ひきこもりの解決策とは

なお、弊社に相談のある「ひきこもり」は、その多くが10~20年、ほぼ家にひきこもり、家族との接触も拒んでいる、というケースです。そして実際にこのようなケースに介入してみると、なんらかの精神疾患がみられることがほとんどです。こういった「精神疾患のあるひきこもり」については、行政はもちろん、ひきこもり支援を行う団体ですらも、「対象は社会的ひきこもりに限る」、「医療従事者でなければ対応が難しい場合は、支援をお断りする」と、シャットアウトしている現実があります。

つまり、精神疾患のある(あるいはその疑いのある)ひきこもりの場合、根本的な解決を目指すのであれば、医療につなげるしか助かる道はない、ということです。

長期ひきこもりの当事者を抱える家族ほど、その状態に慣れてしまい、精神疾患の有無も含め「本人が重度の状態にある」という視点が欠けてしまいがちです。たとえば本人は精神疾患を抱えて苦しんでいるのに、親は、ひきこもりの家族会や行政相談に通うだけの日々を何年も過ごしてきた、というケースを弊社もたくさん見てきました。

家族の多くは、「本人が拒否するから、病院を受診できなかった」と言います。しかし、ひきこもりは家庭内で起きている問題であり、だからこそ本人の状態を判断し、決断ができるのは「家族」しかいません

家族は、いま一度、「ひきこもり」のフィルターを外して本人を観察してみてください。本人が何年も部屋に閉じこもって、まともに顔すら見ていないような家庭では、異変(病気)に気づいていないこともあります。部屋から出て来るわずかな機会を逃さず、その時の様子を音声や映像に撮っておくなど、エビデンス(証拠・根拠)の収集も重要です。

精神疾患の疑いがあるケースではとくに、ひきこもりの概念で目を曇らせず、現実的な対応をとることが解決への道です。

◎長期ひきこもりの問題については、押川剛のnote【長期化した重度ひきこもりの問題を解決できる、現実的思考】でも触れていますので、気になる方はお読みください。

なお、先に述べた九州大学の取り組みに関しては、海外メディアCNA(Channel News Asia)が取材を行っています。YouTubeでも観ることができます。